取締役CFO 兼 経営企画部長
皆さま、こんにちは。遠藤頑太でございます。
「うちの営業部長も工場長も、現場の腕は一流。でも会社の数字や人のことになると、結局最後は私が決めている…」
皆さまの会社では、こんな状態になっていないでしょうか。
幹部や幹部候補の方に任せたい気持ちはあるのに、任せきれない。その原因は本人のやる気や能力ではなく、見ている範囲がまだ自分の専門分野の中にとどまっていることにあるケースが多いと感じています。
当社では2026年1月から3月にかけて、中小企業の経営幹部と幹部候補の方を対象に、全5回の「経営幹部育成講座」を開催しました(講師は私が務めました)。今回はその講座で実際に使った問いかけをもとに、経営幹部に必要な判断力と、社長が自社でできる育て方をご紹介致します。
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現場で優秀な人ほど「自分の専門の目」で会社を見てしまう
中小企業で幹部になる方の多くは、営業や製造、技術などの現場で実績を上げてきた方です。専門性が高いからこそ幹部に選ばれるわけですが、その専門の目だけで会社を見てしまうと判断が偏りやすくなります。
2023年版の中小企業白書に、社長の右腕となる人材(経営者に続くナンバー2)がどんな知識を持っているかを経営者に聞いた調査があります。社内で育った右腕は「営業」の知識を持つ方が64.2%と多い一方で、「経理・財務」は18.3%にとどまっていました。
※出典:中小企業庁「2023年版 中小企業白書」第2-1-45図(帝国データバンク「中小企業の成長に向けたマネジメントと企業行動に関する調査」2022年11〜12月、複数回答)。売上を伸ばしている企業を対象にした調査です。
すべての会社に当てはまるわけではありませんが、社内で育った幹部は営業に強い一方でお金まわりの知識は手薄になりがちという傾向は、私たちが現場で感じている実感とも重なります。地方の中小企業では管理部門の経験者を外から採るのも簡単ではないので、社内の幹部に経営全般の視点を身につけてもらうことが現実的な選択肢になりますね。
私自身もそうでした
偉そうなことを書いていますが、私も同じでした。営業部長だった頃は、お客様への請求金額や出ていくお金をベースに損益を考えていました。
その後コンサルティング部長やCOOを経て財務を預かる立場になってから、考え方が大きく変わりました。
・請求したときではなく、サービスを提供したとき(納品したとき)に売上になるというタイミング(会計では「収益認識」と言います)を意識して、月ごとの数字を考えるようになった
・利益が出るかどうかだけでなく、手元のお金(キャッシュ・フロー)が足りるかを考えてから投資を判断するようになった
・今期の損益計算書(PL)だけでなく、3年後・5年後に会社がどんな財産と借入を持っていたいか(貸借対照表=BSの姿)をイメージして仕事をするようになった
同じ「売上」という言葉でも、見る場所が変わると判断が変わります。講座では毎回、最初に「視点(何のどこを見るか)・視野(どこまで見るか)・視座(担当者・部長・社長のどの立場から見るか)」を確認しました。経営幹部に一番求められるのは、知識の量よりもこの見る高さと広さを変えることだと考えています。

経営幹部に必要な「5つの判断力」
では、見る高さと広さを変えるとはどういうことか。講座の第2回で受講者の皆さまに投げかけた問いがあります。
「あと何人採用したいですか?」
人手不足の会社であれば「あと3人は欲しい」といった答えがすぐに出てきます。そこで次の問いです。
「では、その方を採用したら、売上と利益はいくら増えますか?」
皆さまの会社では、この問いにすぐ答えられるでしょうか。製造業であれば「今お断りしている受注をいくら取れるようになるか」「残業代がいくら減るか」も答えの一つになります。
実はこの「1人採用するかどうか」という判断には、会社の5つの領域がすべてからんでいます。どのお客様にどれだけ売上を増やせるのか(営業)、どんな人をどう育てるのか(人財)、人件費を払っても利益とお金は残るのか(財務)、どこまでの権限と情報を渡すのか(内部統制と情報セキュリティ)、そもそもITで置き換えられる仕事ではないのか(IT活用)。営業出身の方は売上から、工場長であれば人手や設備の段取りからと、自分の現場のことから考えがちですが、社長は意識しているかどうかは別として、この5つを同時に考えて決めていることが多いものです。
経営全般と言っても範囲は広いので、講座ではまずこの5つに絞り、それぞれ次のような問いを投げかけました。

① 営業・マーケティング
「自社が現実的に取れる市場は、いくらですか?」
講座では、市場の大きさを「市場全体→自社が狙える市場→現実的に取れる市場」の順に絞り込んで計算してもらいました。そのとき受講者の方から、こんな声を頂きました。
「市場分析をしてみたら、社長が経営方針発表の中で言っていた目標数値と似たような市場規模が算出された。社長はこういう視座で物事を見ていたのかと気付かされた」
まさに見る高さが変わった瞬間ですね。
② 人財マネジメント(採用・育成・評価)
「5年後の組織図を描けますか?」
どの部署にあと何人必要か、どんな役割とスキルの人か、年齢のバランスはどうか。採用・育成・評価をバラバラにせず、会社の将来の姿からつなげて考える力です。講座では、人事評価は社員に点数を付けるための仕組みではなく、一人ひとりの成長を促すための仕組みとして使うことをお伝えしました。
③ 財務・会計
「明日、従業員の給料を払えるのはどちらの会社ですか?」
講座では、黒字なのに期末の現金がゼロの会社と、赤字でも現金が残っている会社を比べてもらいました。答えは、赤字でも現金が残っている会社です。黒字でも売掛金の回収が遅れたり、在庫や設備にお金を使ったりしていると、給料日に払うお金が足りなくなることがあります(いわゆる「黒字倒産」です)。
同じ回では、3,000万円の機械を期末近くに一括で買っても、通常はその期の経費になるのは減価償却費の一部だけ(講座の例では約125万円)という計算もしてもらいました(中小企業向けの税制の特例で一度に経費にできる場合もあります)。経費がいくらになるにしても、手元からは3,000万円が出ていきます。利益とお金は同じではない、というのが財務の第一歩ですね。
④ 情報セキュリティと内部統制
「社員の悪気のないルール違反で、会社が大きな損害を受けることはありませんか?」
内部統制とは、ミスや不正を防ぐための社内の仕組みのことです。中小企業ではまず「ルールをつくる・教育する・チェックする」の3つと捉えると取り組みやすいと思います。講座では「生成AIに社外秘の情報を入力しない」「退職した社員のアカウントを止めている」といった30項目の確認シートで、自社の守りの状態を点検してもらいました。
⑤ IT活用
「ITに合わせて、自社の仕事の進め方を変えられますか?」
今のやり方にITを合わせようとすると、なかなか効果が出ません。講座では、現場のデータをアプリで集めてAIで分析する様子もお見せしました。中小企業の強みは意思決定の早さなので、仕事の進め方ごと見直す判断ができるかどうかが分かれ目になります。
それぞれの領域で幹部が身につけたい知識については、当社の八田が書いたコラム「なぜ、社長しか決められないのか?「右腕不在」のリスクと、No.2を育てる5つの要素」で詳しくご紹介していますので、あわせてご覧ください。
当社では、この5つの領域を全5回で学び、毎回の演習と宿題で自社の経営方針や計画に当てはめていく「経営幹部育成支援」を行っています。
経営幹部の育て方 社長が自社でできる4つのステップ
講座の設計で大切にしたことを、社長が自社で取り組める形にまとめました。

ステップ1:見る高さを伝える
まず社長が「どの立場から会社を見てほしいか」を言葉にして伝えます。講座でも視点・視野・視座の話を毎回の最初に繰り返しました。自社でやるなら、幹部会議の冒頭で「今日は社長の立場で考えてほしい」と一言添えるだけでも空気が変わります。
ステップ2:5つの領域を「つなげて」話す
営業の話は営業部長、人の話は総務と縦割りにせず、1つのテーマを5つの領域から話し合います。冒頭の「あと1人採用したい」のような身近なテーマが題材に向いています。
ステップ3:自社の数字に当てはめる
一般論を学んでも、自社に当てはめなければ判断力にはなりません。講座では毎回、自社の市場・組織図・決算書に置き換えて書き込んでもらいました。自社でやるなら、月1回の幹部会議で試算表(毎月の損益の速報)を一緒に見て、気になる数字を1つだけ掘り下げるところから始めるとよいと思います。
ステップ4:決めてもらい、振り返る
講座では毎回の最後に「何を・どれくらい・いつまでに」やるかまで決めてもらい、次の回で振り返りました。自社でやるなら、まずは「○万円までの修繕」「部署内の残業の割り振り」のように金額や範囲の上限を決めて判断を1つ任せ、結果を一緒に振り返ります。幹部会議では社長が先に結論を言わず、まず幹部の考えを聞くことも大切です。
先ほどの白書では、社内で右腕を育てた企業の工夫として「意識的な権限委譲(仕事と決める権限を任せること)」(50.6%)と「経営陣との接点を増やす」(49.0%)がほぼ並んで上位でした(第2-1-47図、複数回答)。任せる機会と、社長の考えに触れる機会を両方増やしていくことが大切と言えそうですね。
ただし、いきなり大きな判断を丸ごと任せるのはおすすめしません。最初は社長が一緒に考え、少しずつ任せる範囲を広げていくのが現実的です。
まとめ 明日からできること
経営幹部の育成は、特別な研修から始めなくても大丈夫です。
社長が明日からできること
・幹部や幹部候補の方と一緒に、自社の損益計算書を1枚だけ見て「なぜこの数字になったと思う?」と聞いてみる(会社全体の数字を見せるのに抵抗があれば、部門ごとの月次の損益だけでも十分です)
・「あと1人採用したい」のような身近な判断を1つ選び、5つの領域から一緒に考えてみる
幹部候補の方が明日からできること
・自分の部署の今月の粗利(売上から仕入や外注などの原価を引いた利益)を、自分で計算してみる
・採用や設備の要望を出すときに「売上と利益がいくら増えるか」を1行添えてみる
・経営方針発表で社長が掲げた数字の根拠を、社長に1つ聞いてみる
見る高さが変わると、幹部の方の発言が変わります。そしてある日、社長が「自分と同じ景色を見てくれている」と感じる瞬間が来るはずです。皆さまの会社でそんな変化が起きることを楽しみにしております。
「自社の幹部候補をどう育てればいいか相談したい」という段階でも大丈夫です。30分の無料オンライン相談では、当社のプランナー/コンサルタントがお話を伺い、貴社の幹部候補の方がどこから手をつけるとよいかを一緒に整理します。社長と幹部候補の方がご一緒にご参加いただくこともできますので、お気軽にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました!






